そもそも「AC」という言葉がアガリスクにおいて何を指すのか知らない人も多いだろう。最近おれたちすら使ってないし。
アガリスクのメンバーがゴソっと抜けた時期があって(そもそも人数少なかったけど)、おれと塩原と冨坂で「このままじゃなんともならん!」と閉塞感を打破するために、「短尺でも発表の場を」「他劇団との競演の場を」という話からギリギリのマンパワーのなかで無理矢理立ち上げたのが新宿コントレックスであり、その際に少人数ゆえのドメスティックかつニッチな表現−「アガリスクのコント」つまり「AC」、という公共広告某みたいなブランドをブチ上げよう、と思ったのである。
振り返ってみると、本当にそこには発見と出会いとがあった。『エクストリーム・シチュエーションコメディ』に代表されるACでの成功例(もちろん二度と日の目をみないであろう作品も沢山あるが)は、その後の劇作に大きな影響を与えた。国府台高校以外なんの演劇的バックボーンも繋がりも持たない我々に、現在まで続く仲間やライバルという"関係"ができた。
大袈裟でなく、あそこでコントレックスを始めていなければ、ACを作っていなければ、アガリスクエンターテイメントは潰れていただろう。
さて。
劇団的にはおそらく年内最終興行となる新宿コントレックスvol.15。アガリスクは新作である『ハイベン』というネタをかけた。劇団員加入ラッシュとなった2016年を締めくくる、全員参加with矢吹ジャンプ(ほぼ劇団員)という「ドメスティック」なメンバーで、「食中毒対策で排便を規制された給食センター」という実話を元にした会議コメディという「ニッチ」なネタを書き下ろした。
コントレックス全体の総括としては、間違いなく今までのコントレックスで一番の盛り上がりだった。単純に動員(ほぼ満席)でもウケ(頭のMCからカーテンコールまで)でも、なかなかこういうイベントはないんじゃないかな、てステージだった。
なにより、4団体が4団体とも「笑いを獲る」姿勢が強くて、というよりそこにストレートだった。そしてその姿勢に結果が伴っていたことが、イベントに勢いと一体感とをもたらしたのだと思う。
いつも言ってるけど、コメディは形式(スタイル)じゃない姿勢(アティテュード)だ。そして結果(ウケること)だ。競演者だけでなく客席も含まて、その姿勢と結果を共有していたと感じた。それは正直、いやあえて書いてしまおう、黄金のコメディフェスティバルでも感じられなかった部分だ。コメディのコメディによるコメディのための、そういう評価軸。笑いを獲るためにセリフがあり俳優がおり物語がある。「笑い」は添加物じゃない手段じゃない、本質で目的であるはずだ。コメディと名乗るなら。
で、そうそう『ハイベン』という作品について書くつもりだったのだ。まあタイトルも含めてセルフパロディ臭がするし実際そういう部分もあるのだが、前述したように実際にあった出来事から着想を得ている。食中毒を起こした給食センターが勤務中の排便を禁じる、、、既にネタでしかないコレを、アガリスクお得意のパターンに持ち込んでコメディにする。正直、初手で勝ち筋が見えた。
まあスジが見えてても難航するんですよ、ネタ作りは。
人数が増えた分、当然キャラクター数も増える。それに伴いシーン数もネタ数も膨らむ。ここが最後まで尾を引いた。せっかく稽古で出たネタを間引いて間引いて、やっと完本したと思って読んでみたら35分。持ち時間は25分。泣く泣く更にカットする。
結果として、展開が多い割に薄味の印象になってしまった。多分もう少し整理、例えば複数の情報をレイヤー処理したりして圧縮すれば、その分だけ丁寧に描けた部分はある。が、進捗的にそこまで手は回らなかったのが悔しい。
なにより結局、この尺で演るネタだったのか、という疑問が残る。60分くらいは平気でいける。あと限られた尺でこの人数を「キャラクター」として扱っていくことが果たしてできるのか、という議論もある。これは、「ACはメンバー全員で作る」というこれまでの方針にも関わる、大きな課題になるだろう。
いきなり大反省してしまったが、もちろんガッツポーズすべき点もある。なかったら泣いてる。「ウンコでちゃんと笑いを獲る」、これはある意味挑戦だった。下ネタ(の定義には議論の余地がある、エロネタと汚物ネタは同種の笑いなのか?ここでは触れないが)を嫌う人、また面白くても声を出して笑わない人は結構多い。更に、これはおれの感覚的な偏見だがシチュエーションコメディやパズラー的コントを好む層では、もはや多数派ではないかと思っている。
徹頭徹尾ウンコの話題で、アガリスクの、コントレックスの客層を笑わせる。この部分に関しては決して楽観視できなかった。あまつさえ劇中でウンコをした(した蓋然性がある、も含めて)のは全員女優である、よくやったなあと今でも思うが。『ハイベン』はある意味で『わが家の最終的解決』くらいウケるかどうか不安だった。しかし、蓋を開ければ(もちろん好みの部分で合わなかったという声もあるが)、そういった課題はクリアされていたように思う。いや、マジで女性に野糞させるコントでみんなよく笑うわ。最高だぜ。
取り留めなく色々書いたが、まああの頃から比べたらレベルはだいぶ上がったけど、コンセプトや姿勢は全然変わらない、久しぶりのコントレックスと久しぶりのACでした、て話です。
またすぐにでも、やりたいねえ。